「シリーズ往年のミニPC名機」とは
小さいPCが大好きなデイリーガジェット編集部が厳選した、ガジェット魂の琴線に触れるミニPCの名機を、機種の古今東西問わず紹介していく連載です。
[シリーズ記事一覧]
本シリーズ1回目は、ミニPC好きなら誰もスルーすることのできない伝説のモデル、VAIO Type-Pを取り上げます。
VAIO Type-Pとは(もはや伝説の名機)
VAIO Type-Pは、今はVAIO株式会社と別会社化したソニーのVAIO事業部が2009年に発売したミニPCです。もうあの熱狂から10年経つんだなあ…
当時、下記のようなポケットに無理矢理本機を入れてそのコンパクトさをアピールするポスターが一世を風靡しました。
「無理矢理すぎるだろ!」という温かいツッコミと共に。
筆者も、地下鉄のエレベーターを降りながら、この巨大なポスターを見上げていたのを今でも覚えています。
画像引用元:ソニー株式会社
なぜ本機が伝説になったのか?
要因を挙げればいくつもあります。
- このサイズでフルのWindowsが動いた(Windows XP/Vista)
- キーボードが使いやすかった
- トラックポイントが使いやすかった
- 画面が高解像度
- コンパクトで、何より美しい本体デザイン
ただ、実際の利用シーンではフラストレーションが溜まることも多く、筆者自身、予約した上に純正アクセサリまでそろえ、刻印まで入れたのですが、実利用時間はそれほど多くありませんでした。
ただ、ソニーのもの作りのこだわりと野心を感じさせたこの名機は、やはり本連載の一回目にふさわしい、というよりこれしかないという一台なので、ご紹介していきます。
まずは基本スペックおさらい
スペックは、以下の通りです。CPU以外はすばらしかったんです。CPU以外は…
- インテル® Atom™ プロセッサー Z530(1.6GHz)
- Windows Vista® Home Basic (SP1) 32ビット正規版
- 8型ウルトラワイド 1600 x 768どっと
- メモリー2G(オンボード)
- SSD 64GB
- Bluetooth搭載
筆者はオニキスブラックという鏡面加工のブラックに銀色のチップが入った本体色にして、予約したうえにオーナーメードメッセージ刻印サービスまで申し込みました。
スペックを見れば分かるように、SSD搭載や8型にしてこの解像度(昨今のスマホと比べれば見劣りしますが)、BluetoothやWiFi搭載など、今では標準ですが当時は必ずしも標準的ではかった先進的な機能をフル搭載しています。
側面には、USBやイヤフォンジャックなどが刺さるようになっています。
また、バッテリーは取り外し・交換ができるようになっていました。
これも、MacBookの真似してバッテリー交換できなくなってしまった昨今のノートPCと違い、バッテリーがへたっても交換して長く大切に使ってね!という想いを感じさせます。
(筆者のはLサイズバッテリにしました)
このサイズでフルキーボード搭載
最大の特徴の一つは、この小ささなのに、打ちやすいキーボードを搭載していたことでしょう。
配列に癖も無く、十二分にタッチタイピングできます。
(写真では、刻印部分を隠すために乾電池を置いています)
また、ThinkPadのようなトラックポイントもあり、これまたホームポジションから手を動かす必要なく使いやすかったです。
とにかく入力周りは素晴らしく、世界中どこへでもこの一台を持って飛び回る、みたいな妄想をかき立てられる魅力がありました。
利用シーンでの問題
さて、こんなに先進性とこだわりがつまったすばらしいVAIO Type-Pですが、2つだけ致命的な問題がありました。
- ATOMというCPU
- Windows VistaというOS
この二つの要素によって、本機の実利用における魅力は半減、どころか7割減ぐらいになってしまいました。
いずれも、ソニーのせいというより、インテルとマイクロソフトのプラットフォームの問題なのですが、とにかくATOMが遅い、その上で動くVistaも遅いしトラブルだらけ、という現実。
当時、ATOMが搭載されたミニPCは結構出ていましたし、廉価な「ネットブック」とよばれる小型ノートも出ていました。
いずれもATOMを搭載しており、実利用においては遅すぎてほとんど使い物にならず。
このユーザー満足度の観点での大失敗が、市場からミニPCの熱きニーズをしぼませてしまい、その後はミニPCはCore mが出てきた最近までほとんど市場に出ていませんでした。
ミニPC好き冬の時代を招いたのです。
CPUとOSという、ソニーにはどうしようもない2大要素以外は、すべて100点だったこのVAIO Type-Pも、そんな悲しい制約によってメジャーバージョンアップすることもなく終了してしまったのです。
ただ、そんな処理速度の制約がありながらも、本機でなんとか一通りの仕事をしてやろうと、創意工夫しながら愛情たっぷりに利用していたユーザーがたくさんいました。
今でも、「VAIO Type-Pの後継を出してほしい」「Type-Pの再来か!?」みたいな表現を目にすることがありますが、このことからも、いかに本機が当時多くのPCユーザーを魅了したか、お分かりになるかと思います。
おわりに
この5年後には、ソニーはVAIOを手放し、PC市場から日本メーカーはどんどん少なくなっていきました。かわりに、台湾や中国の安いPCを出すメーカーが市場を席巻していきます。それにあわせるように、PCの価格もどんどん落ちていきました。スマホの台頭もありました。
PCメーカー冬の時代が続き、日本のPCメーカーはダメだと言われるようになります。
ただ、新生VAIO株式会社は2年後にまさかの営業黒字を出し、3年目も連続黒字を記録しています。パナソニックのLet’s noteも、独自の道を切り開き、好調を続けています。
この市場環境で、すごいことだと思います。
このType-Pのような本当にすばらしいPCを出した会社だからこそ、VAIOにはこれからも最高の(ミニ)PCを出してもらいたい、切にそう願います。
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