MWC2019で、ソニーは新型のXperiaスマートフォン4モデルを発表しました。
フラッグシップのXperia 1、中価格帯のXperia 10/10 Plus、そして低価格のXperia L3です。
いずれもまだ日本での発売は正式発表されていませんが、従来からの慣行でいけば、国内キャリアでXperia 1が発売されるのはほぼ確実です。
(Xperia 10/10 Plusは、イオシスで輸入品が発売中です!)
Xperia 1はターゲットがとても明確
さて、このXperia 1、前回のXperia XZ3に続き、よくできたスマートフォンです。
「なんでこんなもの出した?」というレベルだった2018年モデルのXperia XZ2〜XZ2 Premiumからは、大きく進化しています。
- 世界初の4K有機ELディスプレイ(3840×1644)
- 世界初の21:9縦長ディスプレイで、映画視聴で黒帯が出ない
- Dolby Atmos搭載、引き続きダイナミックバイブレーション搭載で、21:9ディスプレイとあわせて映画視聴に最適
- 縦長ディスプレイにより、2アプリ同時操作のマルチウィンドウでも違和感が無い
- ゲームに最適な「ゲームエンハンサー」搭載により、通知カットやパフォーマンス最適化などゲーミング体験を向上
- 広角・望遠を含めた3眼カメラ搭載
- デジカメでおなじみの「瞳オートフォーカス」搭載
- 「Cinema Pro」により、映画業界で使われるプロ仕様の撮影UIやマニュアル調整が可能
- 持ちやすさ:重量約180g、厚さ8.2mm
これらは、映像視聴やコンテンツ制作、ゲームなどをガッツリ楽しみたいユーザーの期待を高いレベルで満たす進化です。
「スマホは安くてそこそこでいい」というユーザーははじめからターゲットになっていません。
そしてまた、これは「ソニーの勝ちパターン」を踏襲した戦略であることも明らかです。
どういうことでしょうか?
市場はコモディティ化する
あらゆる商品カテゴリーは、コモディティ化(コモディタイズ)する運命にあります。
典型はテレビです。
家庭にテレビが無かった時代から、広く普及した時期、白黒からカラーになった時期、ブラウン管から液晶になった時期など、市場が拡大していた時期には、メーカー各社にとっては数を追う戦略が有効になります。
数を追う戦略というのは、簡単に言えば、いま利益を出すかわりにそれを投資して台数を伸ばし、来年・再来年のシェアを拡大し、そこから上がった拡大した利益をさらに台数を伸ばすために投入することです。
ですが、現在のように台数の伸びが頭打ちになってくると、数を追う戦略には色々な問題が出てきます。
こういう戦略を前提にした戦略では、市場自体が伸びないと、固定費ばかりがかさんで赤字体質になってしまうのです。
また、あらゆる部品やそれを作ったり組み立てる技術も広く標準化し、高い技術を持った一部の会社だけでなく、新興企業もユーザーから見れば同じような品質のものを作れることになります。
しかもそういう新興企業は固定費が安く、価格競争力がある、すなわち「安くいいもの」を作りやすいのです。
コモディティ化を克服したアップルとソニー
コモディティ化の中で苦しみ、「終わった」と散々言われ尽くした末に、それを克服して復活した有名な会社が二つあります。
アップルとソニーです。
アップルの復活は誰もが知るところです。
パソコンの低価格化と事実上の標準OSであるWindowsに追い詰められて倒産寸前までいった末に、iMac、iPod、iPhoneのヒットで現在の絶好調があります。
ソニーも同じです。
10年間赤字だったテレビ事業を黒字化し、パソコンの普及で「終わった」と言われスマホの普及でまた「終わった」と言われたのにしぶとく生きながらえて今や世界シェア1位で絶好調の家庭用ゲーム機、同じくスマホの普及で「終わった」と言われて市場が縮小し続ける中でいくつかの分野でキャノンやニコンを抜いてシェア1位を取って絶好調のデジタルカメラなど、近年の成功例には枚挙に暇がありません。
そしてソニーは過去最高益を更新しました。
この2社がやってきたことは本質的に全く同じことです。
中韓メーカーが強い普及価格帯の商品をほぼ捨て去り、数を追う戦略をいったんやめ、大規模なリストラで固定費を削減し、余力を高価格帯・高付加価値商品にのみ投入してきたのです。
(アップルやソニーの多くの従業員にとっては厳しい戦略ですが、株主利益最大化という観点では完全に「正しい」戦略になります)
最後に残されたモバイル・セグメント
そして今、ソニーに唯一残された「コモディティ化の中で苦しめられている」事業が、同社のモバイル・セグメント、すなわちXperiaスマートフォンです。
よく「アップルはこれまでにない技術イノベーションによって新しい市場を切り開いた」と言われますが、ちょっと違います。
アップルがやってきたことは、イノベーションを起こすような新技術を開発してきたというよりは、ほとんどが他の企業が生み出した既存技術を、垂直統合を活かして使いやすいUIと合わせて提供し、ブランディングやマーケティングによって高付加価値商品として売り出してきたのです。
NFC・おサイフケータイ、スタイラスペン、タッチスクリーン、ジャイロセンサー、アプリストア、クラウドサービス、ミュージックサービス、全てそうです。
「ソニーのテレビはLGのパネルだから」とか、「iPhoneは部品は全部日本製だから」とよく言われますが、それが批判だとすれば全く当たりません。
二社は、勝負すべきポイントはそこではないということがよく分かっているのです。
上記のようなコモディティ化に苦しんだ経験と、それを克服する戦略をとってきた2社。
ソニーに最後に残された、コモディティ化に苦しむセグメントであるスマートフォンで、同社が取ろうとしている「勝ちパターン戦略」が生み出した一号機がまさに「Xperia 1」だといえます。
逆風ののちに、またかつてのような強いXperiaブランドが復活することを、1ファンとして願ってやみません。
おわり