Windows 11が発表されました。
今年秋にも製品版が投入される、最新のWindowsナンバリングです。
現在最新のWindows 10がリリースされた時は、これがナンバリングとしては最後のWindowsで、今後はナンバリングのメジャーバージョンアップはされないと発表されていましたが、最終的には次の11が登場する形になりました。
裏を返せば、MicrosoftはWindows 10の完成度に自信を持っていたのでしょうし、実際にその安定性には定評があります。
さて、このWindows 11、UI(見た目の部分)や動作するPCのスペック引き上げ、モバイル端末ではバッテリー駆動時間の改善などのアップデートがありますが、カーネル(OSのコアの部分のプログラム)はWindows 10と変わらないようです。
かつてのWindows 95やNTなど、技術的に大きな革新があったバージョンとは、その点は異なります。
ただし、Microsoftの戦略転換という意味では、極めて大きな意味を持つOSであると考えています。
それは、Androidアプリが動作するという部分に端的に表れています。
Windows 11は何が変わる?
冒頭にも書いたように、見た目にはUIの革新が大きな変化でしょう。
↓のように、画面下のタスクバーはアイコンが中央に並んでスッキリまとめられています。
これは完全にChrome OSを意識した変化です。
Chrome OSを意識していることからも分かるように、シンプルでwebフレンドリー、そしてモバイルフレンドリーな方針はさらに強化されるでしょう。
このほか、セキュリティレベルやバッテリー効率、Xboxで培ったグラフィック処理技術の導入などもアピールされています。
そして何より、一番話題なのはAndroidアプリを動かせることです。
↓はTikTokですが、このように一つのウィンドウでAndroidアプリを稼働させられます。
これまでは、サードパーティ製のNOX PlayerなどのAndroidアプリエミュレーターがありましたが、Windows 11ではMicrosoftとAmazon、Intelが協業して、深いレイヤーでの動作が実現しています。
Androidアプリが使えるって何がメリット?
一般ユーザーにとって、Windows上でAndroidアプリが使えるメリットは何が考えられるでしょう?
まず考えられるのは、ゲームでしょう。
AndroidやiOS向けのゲームは、スマホやタブレットでしかプレイできませんでしたが、昨今のモバイル端末の高性能化で、PC顔負けのビッグタイトルが多数出ています。
そういったゲームをPCでもプレイできるのは大きなメリットです。
また、ゲーム以外でも、昨今はウェブ版はそこそこに、ほぼアプリでの利用を前提にしたようなサービスが増えてきています。
UberもKindleもNetflixも、ブラウザ・PCよりもアプリの方がずっと使いやすいでしょう。
デイリーガジェットのアクセス解析を見ても、多くはモバイル端末からアクセスいただいていますので、我々も世の中の人たちのネット利用・サービス利用の主流がモバイルに移ったことは日々実感しています。
つまり、AndroidアプリがWindowsで利用できるようになることは、PCで各種サービスがより便利に使えるようになることを意味します。
そして、PCの大画面を活かして、スマホではやりにくい複数アプリの同時利用なども便利でしょう。
アマゾンとマイクロソフトがタッグを組んだ
ご存じ、AndroidはGoogleのプラットフォームです。
iOS、Android、Windowsというのは、世界の3大デジタルプラットフォームとして、PC/モバイルの世界で死闘を繰り広げてきました。
その3巨頭のうち、AndroidがWindowsで動くのはなぜなのでしょう?
AndroidはGoogleですが、なぜ敵に与するようなことが実現しているのか?
実はWindows 11のAndroidアプリは、Amazonアプリストアから提供されます。Google Playストアではありません。
Androidというのはオープンソースのため、それを改変したOSをHuaweiやAmazonがリリースしています。そしてそれぞれに、独自のアプリプラットフォームを持っています。
Amazonのアプリストアでは、メジャーどころのAndroidアプリが登録されています。Amazonは、KindleやFire TV、タブレットなどのエコシステムを持っていますから、そこでAmazonが改変したAndroidを稼働させ、独自のアプリプラットフォームを提供することで、Amazonの世界でユーザーにお金を落としてもらおうとしています。
そのAmazonとマイクロソフトが共同で、Windows上でAndroidアプリを配布するプラットフォームを展開、マイクロソフトが元々持っているアプリストアと統合し進化させるというわけです。
マイクロソフトはアプリプラットフォームとモバイルOSで全て失敗してきた
プラットフォームの戦いは、どれだけ魅力的なアプリを揃えられるかの戦いでもあります。
OSそのものの完成度よりも、アプリがどれだけ揃っているかが重要と言っても過言ではありません。
Android、iOS、Windowsはいずれも、アプリストアでのアプリを拡充するために、莫大な投資を続けてきました。Amazonも同様です。
そして、Windowsの伝説的成功によって、PC市場で圧倒的な規模を持つに至ったマイクロソフトが唯一失敗し続けてきたのが、アプリプラットフォームとモバイル戦略です。
↓に書いたとおり、Windows PhoneやWindows Mobile、古くはWindows CEなど聞いたことがあるかもしれませんが、いずれもモバイル向けのプラットフォームです。そしてすべて失敗してプロジェクトは終了しました。
いずれも見た目はWindowsによく似ていますが、Windowsと同じアプリは動きません。
PC用OSであるWindowsの強みは、対応するアプリが圧倒的に多かったからです。
だからブツクサ言いながらも皆使っているのです。
マイクロソフトはそのWindowsの使い勝手をモバイルにも持ち込み、アプリは互換性がなくイチから揃えようとして、アプリが揃わないので、モバイル向けOSは失敗してきました。
つまりモバイルの世界でも、PC用Windows同様に大量のアプリが揃えられるはずだと踏んでいたが、実際にはiOSやAndroidのように揃えられなかったのですね。
そして、PC用WindowsでもMicrosoft Storeというアプリプラットフォームがありますが、そこもかなり微妙です。
Windowsのアプリ資産は、アップルがApp Storeで確立した胴元によるピンハネを前提にした統一的な配布プラットフォームではなく、従来からある自由でオープンなパッケージ販売やダウンロード販売が今もメインです。
マイクロソフトの戦略大転換を象徴するOS
ただし、世の中はアプリプラットフォーム全盛です。
マイクロソフトは、今のままではいずれモバイル方面から強力なアプリプラットフォームを持ったAndroidとiOSにやられてしまうという強い危機感を持っていたのでしょう。
実際、GoogleはPC用OSであるChrome OSで成功していますし、AppleはMacOSとiOSをどんどんと近づけて行っています。
そこで、↓にも書いたように、マイクロソフトはオープン戦略に徐々に舵を切ってきました。
Windows上でLinuxのbashが動くようになり、そして今回のWindows 11ではAndroidアプリが動くようになりました。
これまではそういった競合は物量戦で叩き潰すというのがマイクロソフトの戦略だったのですが、GoogleとAppleのプラットフォームが巨大化しすぎた結果、それらと正面切って戦うのではなく、むしろそれらが持つアプリ資産をWindowsに取り込むことによって、従来からある膨大なWindows用アプリと合わせて、今後も最大のアプリ資産を持つナンバーワンOSとして生き残りを図ろうとしているのです。
Windows 11は、これまで節々に見えていたそういったマイクロソフトの戦略転換がもっとも明確に打ち出されたはじめてのメジャーバージョンアップということです。
だからこそ、ナンバリングは変えないという表明を実質撤回する形で、ナンバリングを11に上げたのでしょう。
マイクロソフトの決意を感じます。
そして同社は、今後のMicrosoftアプリストアでは、AppleでもGoogleでも大歓迎と表明しています。
敵と見るや圧倒的な物量戦で叩き潰してきた時代の同社からは考えられないしたたかさです。
AppleやGoogleの対抗策が楽しみ
生き残りのためになりふり構わない、そして非常にしたたかな戦略に転換したマイクロソフトは、AppleやGoogleにとっては大きな脅威だと思います。
一時期はGAFAの勢いに押されて、もはや未来はないなどと一部から言われていた同社ですが、そんなに甘っちょろい会社ではないのです。
Officeソフトや法人向けサービス、PC用OSなどの強力な基盤を持った同社が唯一負け続けていたモバイルやアプリプラットフォーム分野における戦略大転換です。
個人的な話ですが、マイクロソフトの方とはデイリーガジェットとは関係のない部分で一緒に仕事をすることが多いのですが、控えめに見てもむちゃくちゃ優秀な人が多いです。
そんなマイクロソフトに、AppleやGoogleがどういう対抗策を打つのかとても楽しみです。
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