少し前まで、5,000mAhのバッテリーを積んだスマートフォンは分厚くて重いのが当たり前でした。ところが2026年、Tecno Pova Curve 2はたった7.42mm・195gのボディに8,000mAhを詰め込んでいます。このブレイクスルーを支えているのが「シリコンカーボン(Si-C)負極」と呼ばれるバッテリー技術です。中国メーカーが先行して採用を進め、HonorやiQOO、Realmeからも同様のモデルが続々と登場しています。本記事では、Si-C負極とは何か、どうして薄いのに大容量なのか、そしてAppleやSamsungがまだ踏み切れない理由まで、まとめてお伝えします。

なぜ薄いのに大容量?――「シリコンカーボン負極」のカラクリ
今のスマートフォンに入っているリチウムイオンバッテリーは、そのほとんどが負極(マイナス側の電極)にグラファイト(黒鉛)を使っています。グラファイトは安定していてコストも安く、長年バッテリーの定番素材として使われてきました。ただし、同じ体積に蓄えられるエネルギーには限りがあり、「もっと薄く、もっと大容量」という要求にはいずれ応えきれなくなります。
そこで登場したのがシリコンです。シリコンはグラファイトの約10倍ものリチウムイオンを蓄えられるポテンシャルがあります。ただ、充電のたびに最大300%も膨らんでしまうため、そのまま使うとバッテリーが壊れてしまいます。この弱点を補うために考え出されたのが、シリコンとカーボンを混ぜ合わせた「Si-C負極」です。カーボンが骨組みの役割を果たし、シリコンの膨張を受け止めることで、グラファイトより20〜50%もエネルギー密度が高いバッテリーを、実用レベルの耐久性で作れるようになりました。
この技術がいきなり完成したわけではありません。2023年頃にメーカー各社がシリコンを5〜10%ほど混ぜた試作を始め、少しずつ容量を上乗せしていきました。2024〜2025年にかけて中国ブランドが本格採用に動き、スリムなスマートフォンのバッテリーは5,000mAhの壁を越えて6,000mAh超に到達。2025年のHonor Power(8,000mAh / 7.98mm)を皮切りに、2026年に入るとTecno Pova Curve 2(8,000mAh / 7.42mm)やRealme Neo 8(8,000mAh / 8.3mm)が相次いで登場。iQOO Z11 Turbo(7,600mAh / 8.1mm)も含め、薄型大容量モデルの選択肢は着実に広がっています。
AppleとSamsungはなぜ様子見なのか
中国メーカーがどんどんSi-C負極を取り入れる一方で、AppleとSamsungは慎重な姿勢を崩していません。理由は大きく3つあります。
まずはバッテリーの寿命です。シリコンは充放電のたびに膨らんだり縮んだりを繰り返すため、長く使ううちに劣化が早まるリスクがあります。Appleは500〜1,000回の充電後にバッテリー容量80%を維持することを基準としており、Samsungのフラグシップは2,000回を想定しています。Si-C負極がこの基準を確実にクリアできるかどうか、まだ検証段階にあるとされています。
次に安全性の問題があります。Samsungは2016年にGalaxy Note 7のバッテリー発火問題で大規模リコールを経験しており、バッテリーの新技術には非常に慎重です。Si-C負極はグラファイトより膨らみやすく、年間数億台を出荷する大手メーカーにとって、ほんのわずかなトラブルでも致命的になりかねません。
そして製造コストと供給の壁です。Si-C負極の製造にはナノレベルの加工技術が必要で、グラファイトより高コストです。Appleだけで年間2億台以上のiPhoneを作っており、それだけの量を安定して賄えるサプライチェーンはまだ整っていません。
とはいえ、両社とも指をくわえて見ているだけではありません。AppleはiPhone 17シリーズの一部でSi-C負極を採用し始めたとされ、iPhone 17 Pro Maxの容量は5,000mAhを超えています。Samsung SDIもCES 2026でSi-C負極を使った「25U-Power」バッテリーでイノベーション賞を獲得しており、量産に向けた準備は着々と進んでいます。
バッテリー持ち重視のユーザーにとって、今が「買い時」
Si-C負極の広がりは、スマートフォンの選び方そのものを変えつつあります。調査会社Counterpoint Researchによると、2025年上半期の時点で中国市場のフラグシップにおけるSi-C負極の採用率はすでに60%超。今後は10,000mAhクラスも登場する見通しで、2026年末には15,000mAhが実用化されるという予測まであります。
今この恩恵を一番受けやすいのは、Tecno・Honor・Realme・iQOOといった中国系ブランドのユーザーです。たとえばTecno Pova Curve 2はインドで約310ドル(約27,999〜29,999ルピー)というミッドレンジの価格帯ながら、8,000mAhの大容量バッテリーに加えて、6.78インチ・144Hz対応の曲面AMOLEDディスプレイ、MediaTek Dimensity 7100、Gorilla Glass 7i、IP64の防塵防水を備えています。価格に対するスペックの充実ぶりは見事です。
日本ではこれらのブランドの正規販売は限られていますが、AliExpressなどの海外通販を使えば入手は難しくありません。「1回の充電で3〜4日もつスマートフォン」が現実になった今、バッテリー持ちを何より重視する方、モバイルバッテリーを持ち歩きたくない方にとって、Si-C負極スマートフォンはうってつけの一台です。AppleやSamsungの本格参入も含め、バッテリー技術の進化はここからさらに加速するはずです。続報は見逃せません。











