自作PCパーツ市場において、価格の安さからあえて「並行輸入品」を選ぶユーザーは少なくありません。しかし、その選択が「保証を受けられない」リスクと隣り合わせであったとしたらどうでしょうか。インド競争委員会(CCI)は、Intelが長年にわたり実施してきた、並行輸入品の保証を拒絶する特定の地域ポリシーに対し、反競争的であるとして約27.38億ルピー(約46億円)の罰金を科しました。この裁定は、グローバルに展開されるハードウェアの保証規定、そして消費者の「選ぶ権利」に対して、極めて重要な意味を持っています。

「正規品以外は保証対象外」という排他的ポリシーの是正
今回問題となったのは、Intelが2016年4月から2024年4月までの8年間にわたりインド国内で適用していた「インド固有の保証ポリシー(India Specific Warranty Policy)」です。この規定下では、Intelの正規代理店を経由して販売されたボックス版CPU(リテールパッケージ)のみが保証の対象とされていました。
つまり、AmazonなどのECサイトやPCショップを通じて海外から輸入された「並行輸入品」や、正規ルート以外で流通した製品を購入したユーザーは、たとえ正規のIntel製品であっても、インド国内でのRMA(返品保証)申請が門前払いされていたことになります。CCIはこの運用について、インド国内のデスクトップ向けボックス版CPU市場におけるIntelの支配的地位を濫用し、消費者の選択肢を不当に狭める行為であると認定しました。
自作PCユーザーにとって、CPUはシステムの中核であり、万が一の初期不良や故障時にRMAが利用できるか否かは死活問題です。今回の決定は、メーカーの都合による不合理な「正規・非正規の壁」を取り払う画期的な判断と言えます。
他国では認められていた「グローバル保証」との矛盾
CCIがこのポリシーを「差別的」と断じた大きな要因は、Intelが他国で適用している保証規定との整合性にあります。調査によると、中国やオーストラリアを含む他の地域では、同様の並行輸入品であっても保証申請が適切に受理されていました。
特定の国でのみ、流通経路を理由にアフターサポートを制限するこの手法は、現地の並行輸入業者や販売店のビジネスを著しく阻害します。結果として、市場の価格競争が停滞し、消費者は高値でも「保証のある正規品」を選ばざるを得ない状況が作られていました。
ハードウェア自体の信頼性が高いIntel製品とはいえ、電子機器に故障リスクはつきものです。今回のケースは、グローバル企業が地域ごとに異なる「ダブルスタンダード」なサポート体制を敷くことへの、規制当局からの強い警告と言えるでしょう。
消費者の「選ぶ権利」が尊重される市場環境へ
本件を受け、Intelは既に2024年4月1日付で問題のポリシーを撤回しており、インド国内においても並行輸入品の保証申請が可能になっているとのことです。これは、Intel製品を愛用するユーザーにとって、購入チャネルの選択肢が実質的に広がったことを意味します。
日本国内においても、並行輸入品は「保証がない(あるいは販売店保証のみ)」という認識が一般的ですが、今回のインドでの判例は、グローバルメーカーの製品保証のあり方に一石を投じるものです。メーカーによる流通統制よりも、消費者の利益と公正な競争が優先されたこの結末は、今後のPCパーツ市場の健全化に向けた大きな一歩となるはずです。
今回の措置は、価格メリットを求めて海外通販などを利用するハイエンドユーザーや、パーツ選定にこだわりを持つ層にとって、非常に心強い先例として記憶されるでしょう。




