パソコンやスマートフォンなどのコンピューターは、プラットフォームで決まると言われます。
プラットフォームという言葉は色々な使われ方をしますが、ここではCPUとOSのことを言います。
CPUとOSがどれほど重要かと言えば、使えるソフトウェアも最大メモリー容量もバッテリーの持ちも処理速度も、重要なポイントはほぼすべてCPUとOSで決められてしまいます。
そのため、スマホやPCメーカーというのは、IntelやQualcomm、MicrosoftやGoogleが販売するCPU(場合によってはチップセット)とOSの制約の下で、スペックの組み合わせを考えているようなものです。
もちろん、フォームファクタと呼ばれる物理的な作りやバッテリー効率などについては、各メーカーの創意工夫が発揮される余地があります。たとえばLet’s noteは、他よりも抜きん出たバッテリー持続時間を持っています。
ただ、基本はプラットフォームで規定されてしまいます。そこから外れたPCは、作れないか、作ってもコストが高くつきすぎてしまうのです。
そのため、アメリカ企業にプラットフォームを握られている状態をよしとせず、中国などは独自のCPUやOSの開発に躍起になっていますし、日本や韓国もかつてはそれを目指しました。
PCのプラットフォームを作るIntelとマイクロソフトは、「これからこういうPCを作っていきましょうね」という指針のようなものを定期的に出してきます。
ユーザー動向に基づき、莫大なマーケティングバジェットが付けられますし、そもそもその指針に沿ってプラットフォームの開発が進められるため、ほとんどのPCメーカーはその指針に沿った製品を出していきます。
この指針は、概ね5年くらいのスパンで刷新されます。
2019年、プラットフォーマーが新しく出したノートパソコンの指針を見れば、今後5年間のノートパソコンがだいたいどういう方向に進んでいくのかが分かるのです。
これまで出てきた指針とその後のノートPC進化
今後5年間のノートパソコンの進化を見る前に、これまでどういう指針が出てきて、その後どのように進化してきたかを見てみましょう。
2013年のCentrinoと、2011年のUltrabookです。
ノートPC開発に携わっていた方は覚えていると思いますが、どちらもインテルが出した指針です。
Centrinoは、ざっくり言えば無線LANを搭載していつでもWi-Fiでインターネットに接続できるノートパソコンを作っていきましょう、という指針でした。
細かく言えば、外出先でネット接続できるモデム内蔵やCPUなどの規定もあったのですが、実際にその後出てきたノートパソコンは現在に至るまで、Wi-Fi接続が標準になりました。
今では当たり前に無線LAN接続できるノートパソコンですが、当時は一部の先進的なモデルにしか搭載されていませんでした。
ただ、インテルがそういった使い方に最適化されたCPUやチップセットをリリースしていき、世の中のノートパソコンは実際にその方向で進化してきたのです。
2011年のUltrabookに関しては、積極的なCM展開なども行われたため、かなり一般に浸透しました。
こちらは外形に関する規定がメインで、簡単に言えば「薄くて軽いノートパソコンを作りましょう」ということです。
サイズにもよりますが概ね2cm以下の薄さで、バッテリー駆動時間も長いUltrabookは、その技術革新のために300億円以上の基金が設立されたこともあり、その後現在に至るまで、ノートパソコンはとにかく薄くなってきたのは皆様もご存じの通りです。
インテルからUltrabookの認証を得るには、非常に細かい規定に準拠する必要がありました。
そしてインテル自身、そういった薄いノートパソコンを作れるようなCPUを開発してきたのです。
デイリーガジェットで何度も紹介してきているUMPC(超小型ノートパソコン)のように、持ち運びだけを考えれば、本体サイズを小さくしてもいいわけです。
ですが、インテルは薄さとバッテリーこそが今後のモビリティに重要だと考え、薄さとバッテリーを最優先にノートパソコン開発を促し、実際に世に流通するノートパソコンはことごとく薄くなってきたのです。
では今後5年はどういう進化になるのか?
本題の、今後5年の進化を見ていきましょう。
具体的には、インテルとマイクロソフトが今年出した「Project Athena」と「モダンPC」というよく似た指針を見れば、今後5年の進化は明らかです。
インテルの「Project Athena」はこちらのページにあるとおり、下記のようなノートパソコンを作っていきましょうという指針です。
(重要なポイントを太字下線にしています)
- 思いついたとき、すぐに使える
- 必要な機能が必要なときにすぐに使えます。革新的なこのノートブック PC は、インスタント復帰による即時電源オン、超高速接続、実質的に 1 日中使えるバッテリー持続時間 (必要に応じ 30 分の充電で 4 時間使用可能)といった機能を備えています。
- 最も大切なことに集中する
- この強力なノートブック PC は、特にユーザーに対するインテリジェントなレスポンスを考慮して設計されているため、大切なことに集中できます。AI と高度な音声アシスタントを搭載しており、ユーザーのニーズを察知し、ニーズに合わせてパフォーマンスを最適化します。また、ベゼルを薄くした分ディスプレイが大きくなったことで、臨場感が高まり、より画面に集中できます。
- 外出の多いライフスタイル向き
- 常に変化する環境で非常に高いパフォーマンスを発揮するように、ペン、声、タッチの各対話モード、ユーザーの処理を支援する AI 内蔵、2 in 1 フォームファクターなど、設計を一から見直しました。こうした見直しにより、非常に薄くて軽量で、インテル® 搭載の非常に強力ノートブック PC が誕生しました。
マイクロソフトの「モダンPC」というコンセプトもよく似ています。
- ストレスなく、ながく快適に使える
- SSD・eMMC 搭載
- 高速スタートアップ
- スマホのように顔・指紋認証でサインイン
- 薄くて軽いから、持ち運びラクラク
- 持ち運びしやすい上にバッテリーが長持ち
- ノート PC & タブレットを使い分け
- スマホ感覚で使える最新機能
- スマホ感覚のタッチ操作
- ペンで使い方がひろがる
- 安心・安全・簡単な生体認証
- 最新 Office で年賀状作り
- 新しい Office で年賀状や翻訳、3D アニメもやりたいことがより簡単に
- 翻訳機能
以上を集約すれば、今後5年間のノートパソコンは、下記のような特徴を備えたものが支配的になっていくと思われます。
- 画面を開いてすぐに起動
- 一日中使えるバッテリー持続時間(9時間以上)
- 高速なネット接続(Wi-Fi6)
- ベゼルが薄く大きな画面サイズとコンパクトな本体
- タッチ操作・生体認証対応
- ペン対応、2in1
- AIによる対話的操作
上記を見ていただくと分かるように、いずれもスマホが先行して進化しているポイントです。
つまり、「モダンPC」で強調されているように、「スマホのようにいつでもどこでも手軽に使える」というのが一つ目のポイントです。
また、それだけでは「スマホでいいじゃん」となります。
そこでスマホにはないノートPCならではの特徴として、「Project Athena」で強調されているように「外出先でも集中して仕事ができる快適な作業環境」というのがもう一つのポイントです。
まとめると
- スマホのようにいつでもどこでも手軽に使えて
- 外出先でも集中して仕事ができる快適な作業環境
の二つを実現するべく下記を備えたノートパソコンが、今後5年間の方向になります。
- 画面を開いてすぐに起動
- 一日中使えるバッテリー持続時間(9時間以上)
- 高速なネット接続(Wi-Fi6)
- ベゼルが薄く大きな画面サイズとコンパクトな本体
- タッチ操作・生体認証対応
- ペン対応、2in1
- AIによる対話的操作
すでに登場している「Project Athena」認証PC
現在、すでに「Project Athena」や「モダンPC」に準拠しているノートパソコンというのが登場しています。
これらを見れば、今後はそれに似たノートパソコンが売り場の14インチ以下のノートパソコンの主流になっていくのだということが予想されます。
「Project Athena」については、「Engineered for Mobile Performance」という認証ロゴがついていきます。
「モダンPC」については、こちらのページで一覧が表示されています。
「Project Athena」でいうと、下記のようなモデルが認証を取得しています。
- DELL XPS 13 2-in-1
- DELL Inspiron 14
- DELL Latitude 7400
- hp Elitebook 1030 G4
- hp Elitebook X360
- hp Elitebook X360 1040
- Lenovo ThinkPad X1 Carbon
- Lenovo Yoga S940
- Lenovo Yoga C940
- Lenovo Yoga S740
中でも、現在もっとも「Project Athena」の理想に近いと思われるものの一つは発売されたばかりの「hp Spectre x360 13」やDELLの「New XPS 13 2-in-1」です。
おそらくこういう方向になっていくと思われます。
HP Spectre x360 13
本機は、下記のように、第10世代Coreプロセッサを搭載し、10秒でOS起動、22時間のバッテリー駆動、Wi-Fi6対応など、訴求が「Project Athena」そのものです。
まさに「Project Athena」優等生モデルです。
↓のようにベゼルが狭く、大画面の割に本体サイズは12インチノートPC並にコンパクトになっています。
重量1.22kgは驚くほど軽くはありませんが、十分に持ち運び可能な重さになっています。
画面占有率90%とベゼルを狭くすることで、↓のように昨年の旧モデルに比べて大きく本体サイズを削減することに成功しているようです。
ユースケースも、↓のように持ち運べて動画・画像編集、コンテンツ視聴、仕事に趣味にと外出先でも活躍できる一台として訴求されており、2-in-1でペン入力・タッチ入力にも対応しています。
スペックは下記の通りです。現状記事執筆時点では「Project Athena」認定には入っていないようですが、スペック要件は満たしており、おそらく認定PCになると思われます。
- OS:Windows 10 Home (64bit)
- CPU:インテルCore i5-1035G4
- メモリ:8GB~16GB オンボード (3200MHz, LPDDR4x SDRAM)
- ストレージ:256GB~1TB SSD (PCIe NVMe M.2)
- ディスプレイ: 13.3インチ (1920×1080)IPSタッチ
- グラフィックス:インテル Iris Plus グラフィックス
- オーディオ:Audio by Bang & Olufsen クアッドスピーカー、Realtek HighDefinition
- Audio準拠、内蔵デュアルマイク
- Webカメラ:HP True Vision HD Webcam (約92万画素) / IR カメラ
- インターフェース:USB3.1 Gen1 ×2 (うち1ポートは電源オフUSBチャージ機能対応)、USB Type-C 3.1 Gen1 ×1 (電源オフUSBチャージ機能、Power Delivery3.0対応)、ヘッドフォン出力/マイク入力コンボポート×1
- バックライトキーボード(日本語配列)
- 指紋認証リーダー
価格については157,000円~となっており、おそらくこのくらいの価格レンジが主流になっていくと思われます。
1kgを切るモバイルノートPC大量出現に期待
モビリティを考える上で最大の要素はやはり重量です。
もちろん薄さや本体サイズも重要ですが、鞄に入れたときの負荷は重量がもっとも影響が大きいのは明らかです。
サイズに関しては、狭額縁化の流れで、12インチサイズで13インチ液晶や、13インチサイズで14インチ液晶のモデルがたくさん出てきています。
「Project Athena」の目指す方向性は魅力的で、ぜひ重量についても1kgを切るモデルが大量に出現することを願ってやみません。
おわり
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一見怪しいですが実は心優しい、デイリーガジェット動画部のケン氏がゆるい感じにレポートしています。
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