ここ最近、クラウドファンディング上に、にわかに登場し始めたタイプの商品があります。
ディスプレイとキーボードが一体化したガジェットです。
OSを動かすためのCPUやメモリーは入っておらず、あくまでPCやスマホを接続して、外付けモニタとしてもキーボードとしても使える商品です。
たとえば↓の「FICIHP Multifunctional Keyboard」
昔のワープロを彷彿とさせる見た目ですが、キーボードの上部に12.6インチのタッチディスプレイが搭載されています。
↓の「7K140」は、タッチパッド付きキーボードと折りたためる形で、14インチモニタがついています。
また、格安タブレットでおなじみAlldocubeからは、「Alldocube Expand X」という商品が出ています。↓
Surfaceのような筐体ですが、やはりCPUやメモリは入っておらず、PCやスマホを接続して使う、モバイルディスプレイ+キーボードです。
なんとなくワクワクするのですが、なぜ今このような商品が出てきているのか?
その背景を考察するとともに、こういった商品が今後、1ジャンルを築くくらいまで伸びるのかどうかを考えてみます。
まず、なぜ今こういった商品が立て続けに出てきているのか?
そこには3つの大きな背景があると考えられます。
背景1.在宅ワーク拡大
コロナ禍によるテレワーク拡大で、自宅でPCを使った仕事をするようになった人は桁違いに増えました。
これまでのPC利用は、仕事は会社で、自宅ではEC利用やコンテンツ視聴、という分け方の人が多かったと思いますが、現在は在宅で仕事をするというのが一般的です。
在宅で仕事をする場合、会社のノートパソコンを自宅で使うケースが多いでしょう。
すると、大画面で資料作成をしたり、Teamsでミーティングをしながらもう一つの画面でメモを書いたり資料を見たり、といった使い方をしたくなります。
それが、自宅でもモニターが欲しい、マルチディスプレイ環境を構築したい、といったニーズに結びつきます。
昨今の半導体不足の煽りを受けたサプライサイド要因と、テレワーク拡大というディマンドサイド要因が相まって、現在ディスプレイは売り切れだらけという状況です。
ディスプレイは場所を取ります。薄くて狭ベゼルでも、限られたデスクスペース上に接地面積はそれなりに必要になります。
そうなると、一つの選択肢がモバイルモニターを使うことです。
モバイルモニターは、使わない時は折りたたんでおけますし、13~15インチあたりが主で、狭いデスクでも手軽にマルチディスプレイ環境を構築できます。
在宅ワークでは、ノートパソコンの浅ストロークのペタペタではなく、打鍵感のある打ちやすいものが欲しいというニーズがあるので、キーボードも昨今売れ行きが急増しているジャンルです。
それらが結びついて冒頭のような商品が出てきているのでしょう。
ちなみに、それ以外の選択肢としてあるのは、ディスプレイの足を取って、モニターアームを使うことです。
現に↓のアマゾンベーシックのモニターアームがバカ売れしています。
これまでこういうアイテムを使うのはゲーマーやトレーダーが多かったのですが、完全にマスでも受容される商品になりました。
また、ノートパソコンをマルチディスプレイ化する↓のような変態ガジェットも話題になりました。
背景2.スマホでお仕事完結!という願望
在宅ワークが増えて、スマホで多くの仕事ができるようになったという実感が広がってきました。
現に、仕事用アカウントを併存させ、TeamsやOutlook、Cisco系サービスなどを組み合わせれば、ミーティングや資料の参照くらいまでなら何ら問題なくできるようになりました。
ただ、さすがにスマホだけで資料作成は厳しいでしょう。
でもスマホで完結させたい!というニーズに応えるべく、ディスプレイにスマホを接続するとPCライクに使えるSamsung DexやHuaweiスマホの機能が提供されてきました。
スマホで資料作成ができない理由はハードとソフトそれぞれにあります。
まずハードについては、画面が小さくキーボードやマウスが使いにくいこと。チップ性能はPCに急速に追いついています。
次にソフトでは、Microsoft Officeが機能限定版であることや、ファイルシステムが異なることです。
後者は改善が進んでいますので、「それじゃあ外付けモニタとキーボードがあればスマホで100%仕事できるようになるんじゃないか!」という誰もが持つ期待に応える商品として、冒頭の「7K140」や「Alldocube Expand X」のようなキーボード一体型モバイルディスプレイが登場しています。
外でも仕事ができる必要があるので、持ち運びができる形状になっていることも特徴です。
現に、これらの商品は、スマホと接続したユースケースをメインのメッセージングとして訴求しています。
背景3.クリエイターツールボックス
クリエイターがAdobeのソフトを使う際など、いちいちマウスでツールを選択せずとも、手元の小さなタッチディスプレイでツールボックス機能をつかうというニーズはこれまでもありました。
冒頭の「FICIHP Multifunctional Keyboard」は、この流れを受けた商品という側面が強いです。
このジャンルで一番有名なのが、MacBook ProのTouch Barです。
また、ASUSのZenBook Duoにあるキーボード上部のサブディスプレイも同様ですね。
クリエイターやゲーマーに向けたツールボックス的な手元のサブディスプレイという一定のニーズがあり、この流れも冒頭のようなFICIHPのような商品が登場した背景にはあります。
今後このタイプの商品は伸びるか?
最後に、ディスプレイとキーボードが一体化したタイプの商品が伸びるかどうか?です。
上記3種類のディマンドそれぞれが今後どうなっていくかという考え方で考察します。
まず1の流れですが、これはモニターとキーボードが一体である必要はありません。自宅作業をマルチモニターにしたいだけなので、ベストなのはディスプレイです。
接地面を省略したかったら、モニターアームやモバイルディスプレイを使えば良く、キーボードが一体化していると制限が入り使いにくくなります。
そのため、現状ボリュームが一番大きいと考えられる本ディマンドに対応するという意味で、こういったタイプの商品が伸びることは考えにくいでしょう。
次に3のクリエイターツールボックス、あるいはゲーマーやツイ廃のサブディスプレイというニーズですが、これは今後も根強くあるでしょう。
ただ、それが大きく拡大することは考えにくいので、今後もニッチなディマンドとして存在はし続けるでしょうが、これが1ジャンルにまで拡大するとは考えにくいです。
最後に2ですが、大きく伸びる可能性としてはこれが唯一のものだと思います。
PC不要でスマホで100%お仕事完結というのは誰もが願うスマートな姿ですし、そうなれば持ち運びができてモニターとキーボードが一体化した商品のニーズは巨大化すると考えられます。
モバイルOSとPC向けOSが同じモノになり、あたかもレスポンシブルデザインのwebサイトのように、あらゆるデバイスで同じOSと同じソフトウェアがデバイスの画面の大きさに最適化されて表示されるようになるような世界です。
現在は、iOSやAndroidなどのモバイルOSと、PC用OSで、それぞれの作業がシームレスに続けられるようになる方向での進化にとどまっています。たとえばWindows 11でAndroidアプリが使えるとか、MacOSでiOSアプリが使えるとか、ChromeOSでAndroidアプリが使えるとか、そういう方向です。
モバイルとPCの融合は、多くのメーカーが大志を抱いて商品を投入して失敗し続けてきたジャンルです。死屍累々です。
その理想の世界が現実化すれば、このようなキーボードとモニターが一体化した商品へのニーズは巨大になります。裏を返せば、しばらくはニッチにとどまるでしょう、というのが結論です。
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