近頃、未発表スマホのリークが多いと思いませんか?
HuaweiのMateやP、SonyのXperia、SamsungのGalaxy、GoogleのPixelやタブレット、スマホではないですがMicrosoftのSurfaceなど、多くの有名メーカーの未発表モデルのスペックやデザインの情報が、ネットには流れます。
しかもそれらは、発表後に見返してみるとすぐに分かりますが、驚くべきことに、ほとんど正解ばかりです。
また、秘密主義でかつてはほとんどリークがないことで知られていたAppleのiPhoneやiPadでさえ、近年では後から振り返ると、かなりの確度とカバー率の情報が事前にリークしていたことが分かります。
iPad Proも、iPhone Xsも、iPhone XRも、MacBook Air 2018も、すべて発表前に言われていたことの通りでした。
GalaxyやXperia、Huaweiなどの端末にいたっては、発表前にほとんどすべてのスペックがリークで明らかになっていることが多いです。
Appleも、今年はiPad miniが出そうだとか、iPhoneはUSB Type-Cが搭載されるとか、そういう情報がすでに既定路線のようになっています。
そして、過去の傾向から考えると、おそらくはその通りに出るのでしょう。
一般的なリークの要因解釈
さて、このリーク。
一般的には、下記のように解釈されます。
- ほとんどのメーカーが、本社では設計やデザインだけを行い、中国のサプライヤー(部品製造メーカー)に製造を委託している
- それらサプライヤーは、当然発表前モデルのスペックや情報を持っており、彼らがリークサイトやメディアの個人に(もちろん匿名で)情報を売っている
上記のようなリークが多いのは事実でしょう。
たとえばシャープを買収したことで知られる鴻海を傘下に持つFoxconnなどは、従業員がなんと130万人います。
OEMや筐体組み立てラインを大量に持っており、Appleなども利用しています。
その130万人すべてがAppleの未発表モデルの情報に触れられるとは思えませんが、恐ろしいほどの人数が、一部ずつではあれどそういった情報に触れることになります。
それを、すべて統制し、漏れないようにするのはまず無理でしょう。
しかも、有名メーカーの未発表モデルの情報であれば、相当なお金を積んでも欲しいというメディアや個人は無数に存在します。
ですが、ここで疑問がわきます。
そもそも、日韓欧米の有名メーカーが、中国のサプライヤーにOEMや組み立てを依頼することは今に始まったことではありません。
それなのに、リークはここ数年で、明らかに急速に精度を上げ、頻度も高まっています。
注目メーカーのリーク情報は、毎日のように流れてきます。
これはどうしてでしょう?
リークのプロモーション価値にメーカーが気づき始めた?
実は、リークによって起こる現象を見てみると、それはメーカーの立場からすればとても有用な特徴がいくつもあります。
1.継続的にバズを立てられる
これが最大のメリットです。
継続的にリークを行えば、それだけ継続的にバズを立てられます。
これは、広告など通常の手段では獲得するのが相当困難な、計り知れないプロモーション効果を企業に与えることができます。
すでに発表された商品でバズを立て続けるには、メディア広告やイベント開催、店頭販促活動など、莫大なお金が必要です。
他社からは日々新しい商品がどんどん発表されていくなかで、目新しさもどんどん失われていきます。
一方でリーク情報であれば、未発表モデルに関しての情報であり、発表に向けて人々の興味関心は高まっていく一方です。
2.リサーチせずとも市場の反応を見極められる
多くの企業は、新製品を作るに当たっては、市場にどんなニーズがあるのか、どのような特徴がより受け入れられるのかという情報を必死に集めます。
たとえば、RAM4GB/ストレージ64GB/1世代前CPUで7万円のスマホと、8GB/128GB/最新CPUで10万円のスマホはどちらが受けるのか、などは、相当難しい選択だと思います。
いわゆるリサーチです。
これにも、多額の費用がかかります。
上にあげたようなグローバル企業であれば、様々な国でそれを把握しないといけないのですから、なおさらです。
最低でも数百万、グローバルでやるとなると数千万〜数億のお金をかけて、リサーチを行います。
リークをすれば、1円のお金をかけることもなく、出したスペックやデザインに対して、市場の生の反応をいくらでも知ることができます。
メーカーは発売ギリギリまで製品の修正をしているようなので、市場の反応を見極めた上でチューニングすることも可能なのです。
3.お金がかからない
リークは、何よりお金がかかりません。
TVCMを打つとなると、枠にもよりますが最低でも数百万〜数千万円かかります。
それが、1円もかけずにできるのです。
4.具体的なスペックやデザインを出せる
昔から、メーカーの副社長や技術責任者など、偉い人がイベントなどでポロッと未発表モデルのヒントを出すということはよくありました。
また、真っ黒いシルエットだけを出して、ヒントを与えるという手法もよくとられます。
それらはほとんどが狙って行われることですが、そこで具体的なスペックやデザインを言うことはできません。
ですが、リークであれば、より具体的なスペックやデザインを、一部だけ見せることができます。
つまり企業にとって打ち出しのカードが増えるのです。
5.より強力なサプライズを演出できる
仮にリークがすべてcontrollableなものであると仮定すると、出したくない情報だけを出さないという手を取ることもできます。
これにより、事前にリークで流れていた情報を予想して発表を見聞きしたメディアやユーザーに対して、より大きなサプライズを与えてバズを起こすこともできます。
6.手段がたくさんある
リークには、様々な種類があります。
スペック情報、CADによる製品画像、外観の撮影写真、製造情報、公的認証機関への登録情報などです。
これは、メーカーが意図的にリークを行うとなると、すべてメーカーにとっての打ち手に変わります。
つまり、出したいリーク情報によって、最適なリーク手段を選ぶことができるのです。
もちろんリスクも大きい
以上はメーカーにとって、「リーク」をプロモーション手段に使ったと仮定した場合のメリットです。
これらのメリットにより、意図的に「リーク」を使っているメーカーがあるのではないか? という筆者の仮説です。
ただ、もちろんリスクも甚大です。
そもそもリークにより、肝心の製品発表会のサプライズは失われてしまいます。
WWDCなどAppleの発表会は、かつてほどの注目は集めていません。
また、やはり情報の流出は、そのブランドの注目度の高さを表す一方、社員や取引先が「お漏らししている」ネガティブな印象も与えます。
そのため、近年急速に増えてきて、精度も上がってきたリークのすべてが、メーカーによるものとは到底思えません。
ですが、それを戦略的に活用しているメーカーがあってもおかしくないとも感じます。
実は政治の世界ではよく使われる手法
さてこの「リーク」ですが、よく似た手法は、実は政治の世界では古典的に使われてきたものです。
いわゆる「アドバルーン発言」というものです。
アドバルーン発言(アドバルーンはつげん)とは、関係者との調整が終了していないなど政治的に実現できるか微妙な課題について、世論や関係者の動向を見るための発言。「アドバルーンを上げる」や「観測気球を上げる」など「アドバルーン発言」「観測発言」「バロンデッセ(仏: ballon d’essai)」として表現をすることがある。
出典:Wikipedia「アドバルーン発言」
完全に一致するものではありませんが、意図的に一部の情報を流出させることによって世論の影響や反応を見極めるという点で、リークの戦略的プロモーション活用という仮説ととてもよく似ています。
おわりに
いかがでしたか?
アングラな手段ですが、他の手段では得られない強力な効果をもたらすものでもある「リーク」
スマホ業界におけるAppleやSamsung、Sonyの力が弱まるにつれ、それらのリークが多くなり、また精度も高まっていることと、どこか符号しているようにも感じます。
おわり