【シリーズ往年のミニPC名機】Life Touch Note【かりそめの夢】

「シリーズ往年のミニPC名機」とは
小さいPCが大好きなデイリーガジェット編集部が厳選した、ガジェット魂の琴線に触れるミニPCの名機を、機種の古今東西問わず紹介していく連載です。
[シリーズ記事一覧]

シリーズ第5回目は、2011年3月に発売された、NECのAndroidスマートブック「Life Touch Note」(NA75W/1A)です。

これまでの連載でとりあげた中で、もっとも最近に出た機種です。

数年前まで一部の家電量販店には置いてありましたし、2018年12月現在でも、Amazonなどで購入することができます。

まずは概要から

いつもの通り、基本スペックと概要をご紹介します。

通信回線:Wi-Fi / Bluetooth
OS:Android2.2
CPU:NVIDIA Tegra 250
画面サイズ:7型ワイド(800×480ドット)
重量:723g
ストレージ:16GB (内蔵8GB+SDHCメモリーカード8GB)
カラー:バーミリオンレッド/チョコレートブラウン/ピアノブラック

「メモリ8MB」とか「単三乾電池駆動」が並んでいたこれまでの連載とは打って変わって、今見ても違和感はないスペックです。

ただ、画面の解像度やAndroidのバージョン(2.2)などは、さすがに時代を感じます。

まもなく8年くらい経とうとしているんですね。

最大の特徴は、「スマートブック」という言葉の通り、クラムシェルタイプの本体と、開くとフルサイズのキーボードが搭載されていることです。

筆者は、「ピアノブラック」を持っていて、全面プラスチックですが表面は磨かれていて、チープな感じはありません。

NECロゴの左上には、カメラも搭載されていますね。(インカメラはありません)

右側面には、SDカードスロットと専用充電アダプタケーブルの差し込み口があります。

左側面には、3.5mmイヤフォンジャックと、mini-USBジャックがあります。

モバイルギア……なの?

NECが出した小型のクラムシェル端末ということで、まっさきにイメージするのが

モバイルギアの再来か?

ということですよね?

実際に、本機をさして「モバイルギアの再来」というタームが幾度となく使われていました。

そして本機の開発者インタビューを見ても、開発者たちもモバイルギアを意識して作ったことが分かります。

フルサイズのキーボードがある点も、本体サイズも似ています。

というわけで、モバイルギアとの比較という観点で、本機のレビューをしてみたいと思います。(もちろんこの場合、モバイルギア=すばらしい名機 という前提があります笑)

モバギとの比較で良くなった点

これは、Androidというプラットフォームゆえのことですが、やはりデータのやりとりでしょう。

SDカードも入りますし、何よりWi-fiでネットに接続できます。FOMAモデルであれば、モバイルデータ通信もできます。

そのため、クラウドアプリを入れれば、スマホやPCと同じように、データの作成・保存・共有などが簡単にできます。

また、二点目としては、処理速度も挙げられると思います。

出た時代が異なるのでもちろん単純な比較は無意味ですが、本機は通常の(当時の)Androidスマホと同様、ネットを見たり(カクつきますが)動画を再生したり、PDFや写真を開けます。(解像度は低いですが)

そういう意味で、モバイルギアのような「完成、完結されたエコシステム」感は少なく、いわゆる通常のスマホと同じような「オンラインへの開かれ方」をしています。

また、ATOK標準搭載という点も良いでしょう。

モバイルギアも、ATOKが最初から搭載されたモデルも少なからずありましたが、本機もプリインされています。

ATOK for Life Touch Noteと、「ライフノート」という優れたエディタにより、いわゆる「テキスト打ち」のソフトウェア的環境は相当優れています。

「ライフノート」は、モバイルギアの「MGエディタ」と比較しても全く遜色ないどころか、より優れた点がいくつもある良いエディタです。

モバギとの比較で残念な点

これは結構あります。

まずキーボード。

モバイルギアがあれだけ支持された素晴らしい点の一つが、打ちやすいキーボードにあったと思います。

ただ、本機のキーボードは、よくあるBluetoothキーボードくらいの完成度で、モバイルキーボードとしては悪くもないが良くもない、という完成度でした。

ホームボタンなど、Androidに最適化されたボタンがあったことや、癖のない配列、キーピッチなどは良かったのですが、キーボードとしての完成度は良くて65点くらいでしょう。

また、バッテリの持ちも9時間と、乾電池で24時間動いたモバイルギアと比較すると見劣りします。

あと、ディスプレイは180度開くようになっているのですが、135度以上開くと、ディスプレイ側に倒れてしまいます。

これは地味に使いにくく、ディスプレイ視野角と本体サイズから考えると、135度というのはそれなりの身長の男性であれば開く角度です。そのため、キーボード側の裏面に金属板を貼り付けて倒れないように使う人もいるくらいでした。

また、これは今となっては一番大きいのですが、Android2.2以降バージョンアップされなかったため、現在ではアプリストアも使えなければ、セキュリティアップデートも行われません。

筆者は工場出荷状態に戻したのですが、あらためて「ライフノート」などのアプリを入れようとしたら、提供が終了していました。

そのため、永遠に使うことはできません。

EvernoteやDropboxも使えない、使えてもセキュリティ上危なくて使えないとなりますと、もはや何もできなくなります。

そのため、これはAndroidというプラットフォームだから仕方ないことなのですが、今でも乾電池を入れればポメラ的に活用できるモバイルギアと比較すると残念で仕方がありません。

何が失敗だったのか?

筆者は本機が好きなのですが、ビジネス的にはお世辞にも成功とは言えないでしょう。

また、往年のモバイルギアファンも、満足していないと思います。

要因は二つあると思います。

  1. Android端末としての不十分さ
  2. テキスト打ち端末としての不十分さ

まず1ですが、ディスプレイ解像度や処理速度の遅さから、動画再生なども十分にはできませんでした。そのため、まずタブレットやスマホの代替にはなりません。

テキスト打ちに特化したという事なのでしょうが、それであれば今度は2が問題になります。

2について。これはAndroidというプラットフォームを搭載し、Android端末の販路に乗せたことから生じることですが、ポメラなどのテキスト打ち専用端末と比較すると、バッテリ持ちやキーボード、ソフトウェアの利用可能期間の短さなど、テキスト打ち端末単体としての完成度が低いです。

これと比較してポメラは、割り切ってネットも何もかも捨てて、ひたすらにテキスト打ちだけに特化し、売り場もスマホやタブレット、PCではなく、電子辞書や文房具のコーナーに置いて、何年にもわたって売り続ける、という戦略をとったことから、テキスト打ちニーズに見事に応えてヒットしました。

間を取った結果、モバイル端末としても、テキスト打ち専用端末としても、どちらの観点からも不十分なものになってしまいました。

これが敗因だと思います。

それでもLife touch noteが好き

少し辛口なことを書きましたが、筆者はこの端末が好きです。

好き故に、なるべく客観的に考え、上記を書きました。

それでも、猫も杓子もタッチパネルのディスプレイのみ端末ばかりになる中、フルキーボード搭載の本機を出したことに、感謝したいと思います。

テキスト打ち端末としてキングジムのポメラがすでにヒットしていたこと、過去にモバイルギアという名機を出したことが、NECが本機を世に出すきっかけになったと想像します。

この後も、GPD WINやGemini PDAなど、似たコンセプトの端末は多く出ています。

ですが、モバイルギアを念頭に置いた本機のサイズ感が、筆者は一番好きです。

そのため、本機での学びを活かし、ぜひいつの日か、あらためて今度は本当に「モバイルギアの再来」と言われる名機を世に送り出してほしいと、心から思います。

おわり