長年、ジャストシステムの日本語かな漢字変換システム「ATOK」を愛用している筆者ですが、数年に一度、一太郎も購入しています。
今でこそ好調なATOKですが、ジャストシステムはかつて、かなりピンチの時代がありました。
「マイクロソフト帝国」時代
かつてWindows95やWindows98といったOSが売れていた頃、猫も杓子もマイクロソフト、ウィンドウズという時代がありました。
今では考えられませんが、当時のマイクロソフトの勢いは凄まじいものがあり、OSをバージョンアップしただけで、何万円出してそれを買う人の行列が世界中でできたのです。
OSは無料でアップデートされる現在ではとても考えられません。
その勢いに乗じてマイクロソフトは、WebブラウザのInternet Explorer、オフィススイートのMicrosoft Officeをはじめとして、あらゆるソフトウェアをWindowsにバンドルし、さらにはOSと統合することで、半強制的にユーザーがそれらを使わざるを得ない状況に持っていこうとしました。
さすがにそれは各国の独禁法に抵触し、それらのソフトウェアがバンドルされないWindowsを発売するようになりました。
盛者必衰
このマイクロソフトの勢いを打ち砕いたのが、インターネット(クラウドコンピューティング)とその覇者であるGoogleです。
Googleは、それまで有料だったブラウザや大容量のeメールを無料化し、しかも軽量で動作も早いChromeを出しました。
また、OSに依存せず、ブラウザを経由してクラウドベースで検索やオフィスソフトなどあらゆるサービスを無料で利用できるようにし、さらにはGoogle MapsやYouTubeなど、人々の生活はGoogleのサービスなしでは成り立たなくなるほどの革新的なサービスを展開します。
そして、それらに必要な莫大な研究開発投資や運営費を、ウェブの広告配信プラットフォームから上がる莫大な収益でまかないます。
今やGoogleを中心としたウェブ広告プラットフォームは、TVや紙媒体などの伝統的なマス広告を完全に追い抜き、世界中でさらに伸び続けています。
そして、人々のウェブ利用が増えれば増えるほど、さらにGoogleの収益も膨らむような、怪物のようなビジネスエコシステムを完成させたのです。
また、Googleのお陰で拡大したこのウェブベースのコンピューティング世界にうまく乗っかることで、マイクロソフト躍進の陰で倒産しかかっていたAppleも、改めて成長軌道に乗りました。
マイクロソフトの猛攻に耐えて生まれ変わったジャストシステム
AppleやNetscapeと同じく、マイクロソフトの凄まじい攻勢を受けた会社が、ATOKや一太郎を出しているジャストシステムです。
一太郎や花子のようなオフィススイートは、まさに巨大市場日本におけるMicrosoft Office最大の競合商品であるためです。
ですが、Appleと同じく、ジャストシステムも、この猛攻に耐え、生き残る道を探り続けた結果、今やATOKのサブスクリプション収入など、非常に好調な業績と確固たるビジネス基盤を築いています。
たとえば現在最新の、ジャストシステム2019年3月期決算の第二四半期決算では、売上が前年同月比23.9%増の142億円、営業利益は実に42.3%増の47億円と、昨年に続き二桁増というベンチャー企業のような快進撃を続けています。
日本語と歩んできたジャストシステム
徳島でうまれたジャストシステムは、社長夫婦が創業した小さなソフトハウスからスタートしました。
コンピューターの広がりとともに、コンピューター上で日本語という複雑な言語を快適に使えるように、ワードプロセッサやかな漢字変換システムを早期から開発します。
あらゆる言語の中でも、日本語というのはコンピューターの世界では言語話者の利用環境としてトップクラスにめぐまれた環境を持っています。
それも、このような先人たちのお陰なのです。
そして、今に至るまでバージョンアップを続け、もはや誰にも追いつけないほどの完成度と精度をもった変換システムATOKを月額制で提供することにより、収益の基盤の一つとしています。
また、その技術を生かし、スマホ向けのノートなど新しいサービスも提供することで、モバイル時代にうまく適応したビジネスを展開しています。
一太郎は?
さて、ATOKが好調ないっぽう、一太郎はそこまでフィーチャーされません。
ですが、このソフトウェアも、今に至るまで一度も立ち止まることなく進化を続けています。
もはや完成度はこれ以上ないほどに高まっているのですが、今年も一太郎2019バージョンアップのご案内がジャストシステムから届きました。
郵送でこのパンフレットが届くのを、筆者は毎年の楽しみにしています。
そして、「今年はどんなバージョンアップを見せてくれるのか?」とワクワクしながらページをめくるのです。
え? GPDとコラボ?
ページをめくっていると、驚くべき特報がありました。
そうです。GPDとのコラボで、GPD Pocket 2に一太郎2019限定セットが出るというのです。
GPD Pocket 2は、深センのGPD社が出している超小型パソコン(UMPC=Ultra Mobile PC)で、同社はほかにもGPD WinなどのUMPCシリーズを展開しています。
また、2019年にはGPD MicroPCという、新機軸のUMPCをリリースする予定です。
小型PCが大好きなデイリーガジェットでも、下記の通り何度も取り上げました。
さて、このGPD Pocket 2と一太郎2019のコラボですが、急いでウェブサイトの方も確認しました。
すると、下記の通り、やはり大きく取り上げられています。
特典は、下記の通りです。
- JUSTロゴ入り一太郎ポーチ
- 一太郎ロゴスキンシート
- (日本語入力をやりやすくする)日本語キーボードシール
- (キーボードシールを貼りやすくする)ピンセット
- 液晶保護フィルム
面白いですね。
基本的には、一太郎ファンに向けた特典です。
でも、疑問が湧いてきます。
そう。
「なんで、一太郎がGPD Pocket 2とコラボするのか?」
ということです。
コラボの理由は、「共通ターゲット」
すでに完成度の極みに達している一太郎というソフトウェアが近年、どういったアップデートをしているのかをみていくと、この2社のコラボの理由が見えていきます。
下記の通り、今回の一太郎のアップデートは、文章校正に関するものが大きいです。
また、下記のように、脚注参照やふりがな機能の強化、新元号への対応やレイアウトに関するものなど、細かい改善も数多くなされています。
そして、下記のページには、一太郎の想定ターゲットと考えられる、さまざまなユースケースが書かれています。
こうした一太郎のアップデートで、より恩恵をうける人たちです。
出てくるのは
- 小学校教員
- 大学生
- 弁護士
- 和菓子店主
- 作家
- デザイナー(装丁・ホームページ制作)
正しい日本語を使う必要がある学校の教員や官公庁に一太郎ユーザーが多いのはご存知の通りです。
これは、校正機能のアップデートなどが大きなベネフィットになるでしょう。
また、弁護士や、和菓子店主として出ている自営業者、デザイナーなどは、いわばそれぞれの専門領域におけるドキュメントやチラシを作成するのに便利だということでしょう。
これは、主にレイアウトまわりのアップデートがベネフィットだと思います。
ここで、「作家」というのが出てきます。
たしかに作家は、いずれのアップデートからもベネフィットがある人たちでしょう。
これこそが、GPDとのコラボの背景にある「想定ターゲット」だと考えています。
小説やシナリオを書く人
近年、「小説家になろう」など、個人の小説投稿サイトが人気です。
また、小説の新人賞への応募も、毎回、すごい数が集まるようです。
しかも数多あるそれらの賞から、毎年、100人以上の新人作家が登場しているようです。
そういう賞を経てのデビュー以外にも、電子書籍の出版など、個人で出版するハードルはとても下がっています。
そして、一太郎は、そういう作家(広く小説を書く人たち)というのを、一つの大きなターゲットユーザーに設定しているようです。
現に、小説執筆〜投稿に便利な機能というのを、一つの製品特長として説明しているくらいです。
小説用のファンクションキーセットなども提供しています。
毎回必ず入る一太郎の「校正機能」のアップデートは、もちろん長文を書く作家にとって便利な機能です。
また、自分で小説を投稿するユーザーにとっては、レイアウト機能は重要になります。
なぜなら、彼らは文章を書くだけでなく、自分でレイアウトを整えて電子出版するからです。
「でも、作家なんて数少ないのでは? 一太郎のようなビッグタイトルのターゲットカスタマーとしては、小さすぎないか?」
という疑問が湧くかもしれません。
もちろん、プロの作家だけであれば、市場は極小でしょう。
ただ、上記に挙げた「小説家になろう」など、近頃は、プロではないが小説を趣味で書く、という人がとても増えています。
そういう人が書いた小説でも、ネットに公開すると、読んでくれる人もいます。
また、そういうサイトからデビューする人もどんどん増えているのです。
では、GPD Pocket 2は?
GPD Pocket 2など、フルキーボードを搭載した小型パソコンのファンにも、少なからず作家(プロに限らず)が含まれていると、筆者は見ています。
フルキーボード搭載の小型パソコンのメリットは、「どこでも文章が書ける」ことにあるからです。
プログラミングをするには画面が小さすぎます。でも、小説であれば問題ありません。
ゆったりウェブブラウジングや動画視聴をしたいのであれば、スマホやタブレットの方がいいでしょう。
ドキュメント作成など、通常のオフィス仕事で使うのであれば、大画面で大きいキーボードの方が間違いなく生産性は上がります。
あえて「フルキーボード」が搭載された「小型パソコン」が欲しいというのは、その一つの理由として「いつでもどこでも小説が書きたい」というニーズがあると思います。
それであればポメラでもいいのですが、ポメラですと、書いてそのまま電子書籍化したりメールや投稿することができません。
そのため、特に「作家」の大部分を占める「プロではない人たち」は、 GPD Pocket 2のような小型パソコンに対するニーズがあるのだと思います。
つまり、UMPCであるGPD Pocket 2と、完成されたワードプロセッサである一太郎2019には、「作家」(プロだけでなく、広く小説を書く人一般)という共通のターゲットカスタマーがいることが、このコラボの背景にあるのではないか、と筆者は考えています。
おわり