先日、世界のゲーミングやUMPC(超小型ノートパソコン)の世界に激震が走りました。
おなじみゲーミングプラットフォームを運営するValveが、同社の運営する世界的ゲーミングプラットフォームであるSteamとそのゲームを稼働させるポータブルゲーミングマシン「Steam Deck」を発表したからです。
重い3Dゲームを快適に楽しめる高い性能と、かなりの低価格。ハードもソフトもゲーミングに特化しています。
海外特に北米やヨーロッパのテッキー層の間では、もはや決定打として扱う論調も強く、GPDやOne-NetbookなどこれまでWindowsのゲーミングUMPCを出してきた中国メーカーにとっては、非常に大きな脅威になることは間違いありません。
次に見ていくように、確かにそうした声にも頷けるほどに、性能も価格もインパクトある一台になっています。
では、GPDやOne-Netbookが出してきたWindowsゲーミングUMPCには未来はないのでしょうか?
それを考察していきたいと思います。
Steam Deckのおさらい:決定打的な一台
まずはSteam Deckのおさらいです。
まず先行して発売されるのはアメリカ、カナダ、EU、イギリス。それ以外の地域は、2022年の出荷になる予定です。
現在、対象地域では、Valveのサイト上で予約を受け付けており、出荷は2021年12月予定。ただしディマンドの強さから、多くのユーザーは2021年中には入手できないだろうと予想されています。
Arc LinuxベースのSteam OS 3.0が稼働し、スペックは下記の通り。
- CPU:AMD APU Zen 2(4コア8スレッド、最大448 GFlops FP32)
- GPU:8 RDNA 2 CU(最大1.6 TFlops FP32)
- RAM:16GB LPDDR5
- ストレージ:
- 64GB eMMC(PCI eGen 2 1枚)
- 256GB NVMe SSD(PCIe Gen 3 4枚)
- 512GB 高速NVMe SSD(PCIe Gen 3 4枚)
- 拡張ストレージ:microSD
- OS:SteamOS 3.0(Archベース)
- デスクトップ:KDE Plasma
- ジャイロセンサ:6軸IMU
- ディスプレイ:7インチ(1280×800)
- 外部出力:8k@60Hzまたは4k@120Hz(DP 1.4 Altモード搭載USB-C/USB3.2 Gen 2)
- 輝度:400ニト
- リフレッシュレート:60Hz
- Bluetooth:5.0
- Wi-Fi:2.4GHz/5.0GHz 2×2 MIMO
- バッテリー:40Whr
- バッテリー駆動時間:2~8時間のゲームプレイ
- サイズ:298x117x49mm
- 重量:約669g
カスタムAMD APUとなるZen 2の性能は高く、最新の3Dゲームを中~高画質でスムーズに動かす性能があります。実際、海外の先行ハンズオンでは、かなり重いタイトルまで相当スムーズに動いています。
Steamはシームレスに一体化されており、↓のように各タイトルの検索・購入・インストール・プレイまでが快適にできます。
Steam OSはProtonベースで、ProtonはWindowsとLinuxの両方のゲームを含めたソフトウェアを動作させられるだけでなく、本機にはWindowsをインストールすることも可能であることが明らかになっています。
極めつけは価格です。
3種類あり、一番低いスペックの64GBモデルが399ドル(約4万4000円)、256GBモデルが529ドル(約5万8000円)、最上位モデルの512GB版が649ドル(約7万1000円)です。
また、全モデルでmicroSDによるストレージ拡張に対応。
64GBモデルはeMMCなのであまりオススメできませんが(2Dゲームなど軽いゲーム専用機としてなら良いかもしれませんが)、256GB以降の2モデルは、かなり衝撃のコスパの高さです。
Windows搭載ゲーミングUMPCであるGPD Win MaxやGPD Win 3、One-NetbookのOneGx1 ProやONEXPLAYERなどの半額以下です。
ハードも魅力的です。7インチスクリーンを備えた、ゲームギアを彷彿とさせる形状のボディには、ゲームプレイを快適にできる様々な考え込まれた設計が施されています。
まずはなんといっても両サイドに据えられたトラックパッドです。
ゲーミングUMPCでゲームプレイしたことがある方であれば分かるでしょうが、PCゲームをコントローラーだけでプレイしようとすると、不便を感じる場面が出てきます。
大きな理由の一つがマウス操作ができないこと。PCゲームはやはりマウス+キーボードでの操作をベースに開発されているためです。
それに対し、Steam Deckは左右にトラックパッドを備え、そこでマウス操作に対応させることで、素早い視点移動などに対応することができます。
背面にも、R4/R5/L4/L5ボタンがついています。
海外ゲーマーやテッキー層が熱狂している理由もお分かりいただけたのではないでしょうか?
性能、価格、メーカー、ハード、どれを取っても「欲しい」という結論しか出てこないような完成度なのです。
Windows搭載ゲーミングUMPCの流れ
一方、これまで進化を続けてきたWindowsゲーミングUMPCの流れというものがあります。
メーカーは、GPDとOne-Netbook社。あとはAYAという新興メーカーもあります。
各社最新モデルは、GPD WIN 3とOne-NetbookのONEXPLAYER。
いずれも第11世代Core i5/i7を搭載しています。
このWindowsゲーミングUMPCは、一般のクラムシェルに近い形状からスタートし、純粋携帯型ゲーム機に近い形状に徐々に変化してきた経緯があります。
上記最新2モデルはいずれも、Steam Deckと同じく画面+ゲームコントローラー(GPD Win 3はスライド開閉式のタッチキーボードもついています)ですが、それぞれ1世代前のモデルである↓のGPD Win MaxとOneGx1 Proは、ベースがクラムシェル形状です。
折りたたみ式でキーボードとタッチパッドがついて、それにゲームコントローラーが組み込まれている、もしくは着脱式ではめ込むタイプでした。
そこから、最新モデルでは両社とも、折りたたみ形状やキーボード搭載、タッチパッド搭載をやめたのです。
これは、ゲームをより快適にプレイするための進化でした。
ここに来て、Steamを運営するValveというそもそも強力なプレーヤーによって、はじめからPCゲームプレイにソフトもハードも限界まで最適化されたような一台が突然投入された形です。
しかも半額で。
Valve:プラットフォーマーの強み
Steamを運営するValveが、なぜこれほど強力なハードを投入できるのか。
それは、プラットフォームとコモディタイズというおなじみの図式で説明できます。
サプライチェーンのグローバル化によって、誰もがサプライヤから高品質なパーツを購入できるようになります。するとハードでの差別化が難しくなり、簡単にいえば誰でも一定品質のハードを作れるようになります。
それにより、ハイスペック化と低価格化が同時に進行し、コスト競争力のないメーカーからどんどん撤退していきます。
わかりやすい例はスマホやPCで、いまやスマホであれば3~4万円台出せばゲームを含め何ら不自由ない高性能な機種が購入できます。
そういう世界で強いのは、素材・部品メーカーとプラットフォーマーです。
プラットフォーマーというのは、コンテンツが集まる場を提供し、胴元として上前をはねるプラットフォームを提供する会社ですね。
多くはアメリカの会社で、Apple、Google、Microsoft、Amazon、Netflixなど。Valveもここに入ります。
次いで日本で、ソニーや任天堂が、世界的なプラットフォームを持っています。
プラットフォーマー以外のプレーヤーは、魅力的なコンテンツを作るか、ハードが重要な市場では利益を削りながら価格競争を戦い続けるか、の二択となってしまいます。
そしてプラットフォーマーは、ハード販売以外でも、エンドユーザーからのサブスクリプションやコンテンツ提供者からのロイヤリティ収入があるため、利益ゼロないしマイナスでもハードを提供できます。
プレステやSwitchなどはその最たるもので、ハードで赤字を出しながらプラットフォームのユーザーを増やして覇権を強め、コンテンツで収益を上げるという考え方です。
今回のSteam Deckも、同じ理由でここまでの廉価が実現していることは想像に難くないでしょう。
Windowsゲーム機、生き残る道は”Windows+価格”しかない
Steam Deckが出てきて、携帯型PCゲーム機の世界での競争環境は大きく変化するでしょう。
そうした中、これまで魅力的なハードを提供してきたGPDやOne-Netbookの生き残る道は何でしょうか。
Steam Deckにできないことは、快適なPC利用です。
Steam Deckはゲーミングに特化しているため、7インチディスプレイと小さく、Excelやコーディングには向きません。
キーボードもついていないため、長文入力も厳しいでしょう。
一方で、GPD Win Maxなどは、レビューにも書いたように、普通のクラムシェルUMPCとしてもかなり使いやすいものになっています。
また、Windowsマシンということは、そのまま豊富なWindowsソフトウェア群が使えることを意味します。
Steam DeckもWindowsが使えるとはいえ、基本はSteam OS + ゲーミングに特化したハードです。
その点、はじめからWindows利用を想定して開発されたハードには分があります。
そのため、現在の両社の進化方向である純粋ゲーム機形状という方向性は修正され、やはりGPD Win MaxやOneGx1 ProのようなクラムシェルPCとしても使える形状に回帰せざるを得ないでしょう。少なくともSteam Deckが浸透して以降は。
ただ、それだけでは厳しいでしょう。
やはり価格は下げていかざるを得ないと思います。
さすがに倍の値差があると、携帯型ゲーム機でPCゲームをプレイしたい層も、Steam Deck + 通常ノートPCで十分、となってしまいます。
というわけで、最新CPUを搭載しつつも、今後は10万円を超える値付けをエンジョイし続けるのは難しいでしょう。
なかなか厳しい未来ですが、これまでPCやスマホの世界ではほぼ全メーカーが通ってきたシナリオに、この携帯型ゲーミングPCというニッチジャンルも突入する形です。
とはいえデイリーガジェットはGPDやOne-Netbookも大好きなので、GPDもOne-NetbookもSteam Deckも全部買うんですけどね。
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